再生不良性貧血とは血液を作っている骨髄での造血機能そのものが低下し、血液の全ての成分(赤血球、白血球、血小板)が減少する病気です。
この病気は国の特定疾患(難病)に指定されており、患者さんの約70%は原因不明といわれています。
再生不良性貧血の多くの患者さんの血液中には多能性造血幹細胞を攻撃するTリンパ球(白血球の一種)が出現していることがわかっています。このため、再生不良性貧血は自己免疫疾患の一つと考えられています。
免疫とは、生まれつき自分の体内にないもの(非自己)を識別し、これを排除しようとする働きです。
本来、自分の組織に対してはこの機能は作用しないはずなのですが、再生不良性貧血の患者さんの場合、何らかの理由で自分の組織である多能性造血幹細胞をTリンパ球が攻撃してしまうことで造血作用(骨髄機能)が抑制されるというわけです。
貧血症状 |
一般に貧血は徐々に進行するため自覚症状に乏しいことが多いが、ヘモグロビン(Hb)値が6.0g/dl以下に低下すると、動悸、息切れ、めまい、易疲労感、頭痛などの症状が出現する。 |
出血傾向 |
血小板が50,000/μl以下に低下すると、皮膚・粘膜の点状出血、紫斑、鼻出血、歯肉出血が出やすくなる。また、眼底出血のため視力障害をきたすこともある。重症例では、血尿、性器出血、消化管出血、脳出血をきたす。 |
発熱 |
顆粒球減少にともない細菌・真菌感染を発症しやすい。重症例では、敗血症、肺炎などの重篤な細菌感染症を起こしやすい。 |
(1)末梢血所見
・ほとんどの症例で汎血球減少(赤血球、白血球、血小板すべての
減少)を認める。
・貧血は正球性(時に大球性)正色素性で、網状赤血球数は減少す
る。
・白血球減少は主に顆粒球減少によるもので、相対的にリンパ球の
増加を認めることが多い。
・異型細胞や幼若細胞は認めない。
(2)骨髄所見
・骨髄は低形成で有核細胞数の著明な減少を認める。
・顆粒球、赤芽球、巨核球は減少し、リンパ球、網内系細胞は相対
的に増加する。
・造血細胞の形態には異常を認めず、幼若細胞の増加も認め
ない。
・骨髄染色体は正常核型である。
(3)生化学的所見
・血清鉄の上昇
・不飽和鉄結合能(UIBC)の低下
・鉄飽和率の上昇
・フェリチン値の上昇
病気の程度は、末梢血所見、骨髄所見などから軽症、中等症、重症に分類(表1)され、その程度(重症度)によって治療を変える必要があります。
(1)軽症、中等症
→ 蛋白同化ホルモンを経口投与する。
(2)輸血や血小板輸注を繰り返す必要のある中等症
→ 抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を投与する。
(3)重症
45歳未満でHLAの合致した同胞ドナーがいる場合 → 骨髄移植
それ以外の場合 → 免疫抑制療法
免疫抑制療法としてはシクロスポリンの経口投与かATGの注射
を行う。
非血縁者からの骨髄移植は若年者、特に15歳未満の場合に適
用がある。
(4)支持療法
・貧血に対しては白血球除去赤血球を輸血する。
・血小板減少による出血傾向に対しては血小板輸注を行う。
・顆粒球減少にともなう感染症に対しては抗生薬の投与と顆粒球
コロニー刺激因子(G−CSF)の投与を行う。
再生不良性貧血の重症度分類(表1)
重 症 |
骨髄が低形成で、少なくとも下記の2項目を満たすもの。
・ 顆粒球数 500/μl未満
・ 血小板数 20,000/μl未満
・ 網赤血球絶対数 20,000/μl未満
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中等症 |
少なくとも下記の2項目を満たすもの。
・ 顆粒球数 1,000/μl未満
・ 血小板数 50,000/μl未満
・ 網赤血球絶対数 60,000/μl未満
(ただし、上記の重症に該当するものを除く)
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軽 症 |
それ以外のもの。
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(1)軽症あるいは中等症
・蛋白同化ホルモンまたはATG投与で60%以上の患者さん
が反応し、長期生存する。
(2)重症
・支持療法では1年の生存率は約30%である。
・免疫抑制療法では約60〜80%の長期生存が得られる。
・同胞からの骨髄移植では約80%の長期生存が得られる。
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